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Channel: 防人の領域 - 朱雀のたまほめ
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汚れた仕事-Wet Work-

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頭に来る!


ゼノはイライラしながらウィンターホールドを出た。

数分前の会話が何度も頭の中をよぎる。


無慈悲で冷徹でくそ真面目なご主人{ムームーの事だ}が、

俺に出した命令はこうだった。

各都市を守備する衛兵の装備を手に入れること。

やつはそれを出来るだけ手を汚さずに、手に入れろと言って来た。

そこで俺は手始めに、バルグルーフ首長に謁見した後、

牢屋を見張っていた間抜けそうな衛兵を一人気絶させ、

そいつの身包みを剥いだ。

こんな事は朝飯前だったし、今までの仕事よりも簡単だ。

次にウィンターホールドでも街につくなり衛兵を殴って気絶させ

そいつから身包みを剥いで、合流場所である魔術大学に入ろうとした。


だがそこで問題が起こった。

「あなた、大学に入るなら呪文の素質があるか見せて頂戴。」

ファラルダとかいうハイエルフが、

どういうわけか俺を入学志願者と勘違いしたらしい。

ハ!俺があんなひょろひょろで陰気な魔術師共になろうとしてるように見えるのか?

俺は別のルートからの侵入を考える事にして、そこを後退しようとした。

すると、いつの間にかムームーの野郎が後ろに居るじゃないか!

「到着が遅かったな、ゼノ。とりあえず宿屋で話そう。」

奴はファラルダに会釈をすると、俺を連れて宿屋に入った。


「これが頼まれてた装備だ。取り急ぎ2つ手に入れたぜ。」

俺の素晴らしい仕事の速さに、奴は感謝も尊敬もせず、こう言った。

「そうか。残り7つも出来るだけ早く集めてくれ。」

奴の顔は無表情だった。

「おい、それだけか?よくやったとか、素晴らしい腕前だなとか、そういった言葉は?」

「いいか、ゼノ。これは単純な仕事じゃないんだ。

お前にはまだやってもらう事がある。」

「待てよ。お前はこの地方の財宝を守るってのが任務なんだろ?

だったらなんで俺に衛兵の装備なんかを集めさせる?」

「それは言えない。」

「言えない尽くしで、しかも俺には慎重に動けだと?

何が相手かも知らずに仕事をしろってのか?」

「ゼノ。」

ムームーは明らかに苛立った様子で言った。

「お前は僕と契約を結んでいる。

もし破ればお前をオブリビオンの門の向こう側に送り返す事も出来る。

僕はお前の主人だ。それを忘れるな。」

「いっそ送ってくれた方がよほど楽になれる。」

俺はそう強がった。駆け引きは大事だ。

「いいか小僧。俺はお前の依頼主、

皇帝だろうと大臣だろうと上級王だろうと知ったこっちゃないが、

とにかくそいつの命令の為に命を張るつもりなんざこれっぽっちもない。

だから目的を教えろ。さもなきゃお前を殺すぞ。」

「出来ないね。お前には。僕が死んだらお前はオブリビオンに送還される。」

「だがお前を道連れには出来るさ。」

俺は目をぎらつかせ、舌なめずりをした。

奴は少し驚いたようで{残念ながら怯えなかった。}

辺りを見回すと、グラスワインを飲み干して言った。

「仕方ない。お前に装備を集めてもらっているのは、各都市にスパイを潜入させるためだ。」

「スパイ?」

「僕の本当の任務は、この地方で起きている動乱を出来るだけ早く収束させ、

尚且つそれが中央の脅威にならないようにする事だ。」

「ならウルフリックを殺せばいい。それで十分だろ。」

「それがそうもいかないんだ。

依頼主はウルフリックを生かした状態で出来るだけ早く混乱を収めろと言って来てる。

しかもドラゴンも問題なんだ。ドラゴンの復活については深く知る必要がある…。」

奴の深刻そうな顔を見て俺は言った。

「いいか、考えるのは勝手だがな、目的に向かって行動しなきゃ、

どんな素晴らしい計画があっても役に立たないぜ。

しかもお前は体は弱いただの魔術師だろ。ドラゴンなんて倒せない。」

「それはそうだ。」

奴は珍しく同意した。

「だから秘宝がいるのさ。少なくともドラゴンに対抗できる強さの。」

「そんなものは…」

「ある。」

奴の目が光った。

「ドラゴンについて大学で僕は少し調べたんだ。

それと、この地方に眠る秘宝についても。」

「それで?」

「まず、シロディールと同じように、この地にもデイドラの秘宝がある。」

「ああ、あの秘宝か。」


デイドラの秘宝ってのは、俺達の世界じゃ有名だ。

200年前にタムリエル全土を脅かした

「オブリビオンの動乱」

こいつを引き起こしたのが、デイドラの王子、メイエールンズ・デイゴンって奴だ。

デイドラは俺達の世界とは別の、

オブリビオンと呼ばれる次元に住んでる。

オブリビオンとこの世の大きな違いは、

時間の概念と存在の概念だろう。

タムリエルには時間が流れている。

あらゆる生物は老いて朽ち、そしてまた生まれていく。

だがオブリビオンにそれはない。

物事は永遠。存在が消滅する{厳密に言うと俺達を構成する元素が分散する}か、

タムリエルで殺されない限りは、永遠に生きられる。

存在もあやふやだ。

オブリビオンでは物体はいろんな形をしており、

いわゆる「気体」の状態に近い形をとるのが普通だ。

もちろん固体にもなるが、基本的にどんな形で居てもいい。

まぁ、ここらへんは人間の読者諸君にはわかりづらいかも知れないな。

{ちなみに俺もオブリビオンから呼ばれたクチだ。

誰にって?そりゃ決まってるだろ。

おかげさまでやりたくもない汚い仕事を次から次へと…}

デイゴンの奴は、そんなオブリビオンの世界に飽きたらしい。

奴を信奉する「深遠の暁」っていう名の集団を扇動し、

皇帝とその跡継ぎを次々に暗殺して「門」を開いてタムリエルの世界に進攻してきた。

ま、その後どうなったかは歴史が示してる。

マーティンっていう若い皇帝が命をかけてドラゴンに変身し、

名もなき英雄{そう呼ばれてる英雄が居るんだ}と一緒に門を閉じたのさ。


まぁそんなわけでデイドラはろくなもんじゃない。

基本的にオブリビオンにいる連中を信仰してるって事だからな。

あんなとこに長く居たらまともな神経を持ってるなら気が狂う。

その連中が使っている、もしくは力の一部を授けたもの、

それがデイドラの秘宝だ。


「あれを使うってのか?」

俺が言うと、小僧は顔を振った。

「いや、デイドラは不安定だ。

それに代償に何を要求してくるかわからない。取引は危険だ…。」

{奴の言ってる事は概ね正しい。概ねってのは、不安定以外に対してって意味だ}

「じゃあ何を使う?」

「文字だ。いや言葉か。今調べてる途中だが、

この地方にはシロディールにない奇妙な遺跡があるんだ。」

「文字?魔法を封じ込めたものか?」

「まぁ、そのようなものだ。」

小僧は震えていた。

「僕はさっき、サールザルという遺跡に入ってきたんだ。」

「へえ。」

「そこで文字を見た。」

「ほう。」

「でも、ただの文字じゃなかったんだ…。

僕の中に、流れ込んできて、言葉が聞こえるんだ。」

「そいつは大学の魔術師に治療してもらった方がいいんじゃないか?」

「ゼノ。僕は真面目に話してるんだ。

…ヘルゲンを襲ったドラゴンの事を覚えてるか?」

「ああ、あの黒いドラゴンか。」

「あれも、火を吐く時に、何か言っていた気がするんだ。

僕が見た、というか聞いた文字、というか言葉はあれに似てる。」

こいつは驚いた。俺のご主人はマジに古代の言葉とやらを信じてるらしい。

俺は震えている奴の肩に手を置いた。

「なぁ、ムームー、落ち着け。

俺は残りの装備を取ってくる。

お前はスパイの報告を待って、皇帝に援軍を送ってもらえ。

それで今回は終わりだ。な?」

奴は黙っていたが、首を振った。

「いや、この謎は解き明かさなきゃならない。

それに他にもマジックアイテムはあるはずなんだ。」

奴の決意は固かった。

それからは俺がどんなに言っても首を縦に振らない。

おまけに、最後には怒り出してこう言った。

「いいか、ゼノ7つの鎧を集めると共に、マジックアイテムを手に入れるんだ。

どんなものでもいい。必ずだ!いいな!」

あまりにデカい声で奴が言ったので、酒場中の客がこっちを見た。

だが次の瞬間には元の喧騒が戻っていた。

奴が魅了の呪文を使ったに違いない。

なにせ隣の酔っ払いはカジートの首筋の毛が気持ちいいなんて抜かしてたからな。

俺は怒れる若き魔術師に追い立てられながら、

吹雪いた外を、徒歩で、ウィンドヘルムの街を目指す事になったんだ。




防人の領域 - 朱雀のたまほめ-反乱軍の街、ウィンドヘルム

俺はウィンドヘルムでも素早い仕事をした。

砦の上に居た衛兵をぐっすり眠らせ、軽く装備を拝借した。

これなら楽チンだな…そう思っていた時だった。

すぐ頭の隣を矢が掠めた。

他の衛兵に見つかったのか?

俺が視線を街の外、馬屋の方に向けると、3人組の男がこちらに向かってきていた。

人相が悪く、筋骨隆々。

間違いない。こいつらは俺を狙ってる。

警告なしの攻撃がその証拠だった。


衛兵の手を借りるわけにはいかない。色々聞かれるだろうからな。

俺は砦の上から奴らに飛び掛り、持ち前の業を如何なく発揮した。



防人の領域 - 朱雀のたまほめ-俺の刃が光るね


防人の領域 - 朱雀のたまほめ-シャー!


まったく、なんなんだ。

本当なら捕まえるつもりだったが、

あまりに奴らが死に物狂いだった上に、

俺の硬い鱗を傷つけたもんだから、

生け捕りにする余裕が無かった。

俺はここに着たばかりで、街にもまともに寄っちゃ居ない。

なのにいきなり3人の手練の戦士を送り込んでくるなんざ、

普通の敵じゃなさそうだ。

俺は奴らの懐を探り、書状を見つけ出した。



防人の領域 - 朱雀のたまほめ-見えない敵

こいつらの持ってた書状によれば、

依頼主は狡猾かつ残忍な性格だ。

俺の始末をほのめかしながら、金を十分に支払い、

その上で自分の正体は明かしていない。

おそらくは俺の主人の敵か。いやしかしなぜ?


その時、俺はウィンターホールドの鎧を奴に返していない事に気づいた。

まったくやってられん。

そう思いながら鎧を背中のザックに入れようとした時だった。

鎧の内側に隠しポケットが見えた。

なんだこいつは?

慎重にポケットをあけると、そこには見たこともない印が書かれていた。

ダイヤに目?

それに書状がひとつ。

「あの中央から来たウィザードは危険だ。

トカゲを見つけたら始末しろ。奴の遣いに違いない。

我々は盗賊ギルドのMにあの秘宝を探らせている。

ウィザードよりも先に手に入れろ。」


どうやら俺のご主人はこの土地のなんらかの組織を敵に回したらしい。

それがなんなのかはわからないが、

暗殺に強盗となると、普通の相手じゃなさそうだ。

おまけに衛兵まで取り込むとはね。

もっとも、その点じゃ俺のご主人と考えは同じようだが。

俺は苦笑しながら馬屋へと向かった。



次回へ続く。


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