ムームーと分かれた後、
俺は順調に仕事を進めた。
ものを手に入れるなら、盗賊ギルドに入るのが手っ取り早い。
上手く行けば正体がわからない「敵」の情報も手に入るかも知れないしな。
そう考えた俺はギルドへの潜入を決意した。
ついでに、いろんな街を回って、本筋の依頼でもある鎧集めを実行。
旅の途中で聞いたが、やはりドラゴンの噂で街は持ちきりだ。
盗賊ギルドの仕事の内訳だが、
今は大した仕事が無く、街々で盗みをしたり、
リフテンの大家であるブラックブライアの仕事を手伝うのが主なようだった。
やり手の依頼主。俺の主人もこれくらいだといいんだが。
俺は次々と仕事をこなし、あっという間にギルドの信頼を勝ち得た。
暗殺を仕掛けてきた「敵」の事は相変わらずわからなかったが、
どうやら盗賊ギルドにも「敵」がいる事もわかった。
そして、事件の裏で暗躍していたギルドの裏切り者、カーリアを討伐する為に、
ギルドマスターであるメルセル・フレイと二人で、
そいつが潜む「雪帳の聖域」を目指す事になった。
左がメルセル。右がギルドに誘ってくれたブリニョルフだ。
ウィンドヘルムの東にあるその洞窟に着くと、
先についていたメルセルが洞窟の鍵を開けた。
だが洞窟内部に入ると、何か嫌な予感がした。
洞窟奥から吹いてくる風が俺の成分を刺激する。
{俺はオブリビオン出身だから異界のエネルギーを感知出来る}
「奥に進むのか?」
「当然だ、カーリアはそこに居る。」
メルセルはドワーフ製の剣を持って奥へとズンズン進んで行った。
洞窟は、奥に進むにつれて遺跡の体を成して来ていた。
おまけに遺跡を守る古代ノルドのゾンビ、ドラウグルがわんさかいやがる。
だがメルセルはあらかじめここをアジトにしていたと自分で言っていたし、
実際やつらの襲撃も二人で居れば大した事なく避ける事が出来た。
{罠も沢山あったがすべて俺の天才的な頭脳で解除した}
ただ、戦いの最中、いくつか気になる事があった。
ひとつが、奴らの喋る奇妙な言葉だ。
それは、あの日俺が処刑される寸前に聞いたドラゴンの叫びと、
全く同じものだったのだ。
おまけに、それを食らったメルセルは処刑人と同じく吹き飛んでいった。
ノルドである奴によれば、
一部のノルド人は「声」を鍛える事でそういった技を使えるらしい。
技術なのか魔法なのかはわからないが、俺にも使えるのだろうか?
二つ目はメルセル自身についてだ。
奴は罠の事は知っていたが、それがどんな罠かは知らなかった。
つまり奴とカーリアは完全に敵対関係にある。
にも関わらず、奴はドラウグルの位置は把握していた。
つまり以前にも戦った事がある相手だって事だ。
なら、なぜ俺を一緒に連れてきたのか。
もちろん俺の優秀な頭脳を当てにしてる、といいたい所だが、
実際罠の仕掛けを解くなら一人で行動した方がいいようなものばかり。
どうもひっかかるが、とにかく先に進む事にした。
進んだ先には、奇妙な扉が待っていた。
メルセルによればこれを開くには「爪」が必要になるらしいが、
この扉の爪は既に破壊されており、更に特殊な仕掛けが施してあるらしい。
そして、その仕掛けの解き方は知っているので、自分に任せろといい、
結局俺の出番は無くその扉は開いてしまった。
扉を開いた先にはやはりドラウグル。
だがそいつらを倒した後、事件は起きた。
部屋の壁に奇妙な文字が浮かび上がっていたのだ。
しかもなにか…頭に語りかけるような呼び声が聞こえる。
俺はゆっくりと文字に近づいた。
すると、なんと文字から力が流れ込んでくるではないか。
まさかこれがムームーの言っていた文字か?
メルセルが後ろから俺に声をかけてきた。
どうやら彼には文字の光も何も見えなかったらしい。
しかも声も聞こえなかったようだ。
一体この文字は…。
俺はこの遺跡を出たら、一度大学に居るムームーに会いに行く事にした。
そして。
とうとう最後の扉が開いた。
メルセルが俺に先に行くように促す。
俺は細心の注意を払いながら中に入った。
その時だった!
どこからともなく鋭い矢が俺の胸を貫いた。
くそっ、罠か?
だが矢の飛んできた方向を見ると、それが罠でない事がわかった。
ダークエルフの女が俺めがけて弓矢を放ったのだ。
おそらくあれがカーリアなのだろう。
俺は撃ち返そうと弓に手をかけたが、急に手の力が抜けた。
そして、次に全身の力が抜けて完全に立てなくなった。
矢に毒が塗ってあったか。
俺は神経毒が体を巡るのを感じた。
アルゴニアンの体には毒への耐性がある。
とはいうものの、こいつは相当強力な毒らしい。
今まで受けた中でも最悪だ。
俺が地に伏せていると、後から入ったメルセルがものすごい速さで女に近づいた。
「カーリア!やはりお前か。」
二人は言い争っていた。
だが何かひっかかる。
口論が続き、一触即発の空気が漂ったが、
メルセルが剣を抜くと、カーリアは透明薬を飲んで姿を消した。
相手が居なくなったメルセルは、俺に近づいてきた。
「よぉ…悪いが動けない」
俺が言うと、奴はニヤリと笑った。
「そのようだな。お前を連れてきて正解だった。
最後に役に立ってくれたしな。」
メルセルは笑った。
「何?」
「お前のおかげで俺はカーリアの毒を受けずに済んだ。
そして、お前の役目はここで終わりだ。
お前はこの墓地で骸骨共と一緒に眠るんだよ!」
「おい、ちょっと待て。なんの事かわからない。
俺を生かしておいた方が絶対にいいぞ。」
その場凌ぎにもがきながら、俺は必死に毒が回っていない体の部位を探したが、
悲しい事に口と目しか動かせない。
「いいや、駄目だ。お前は頭がキレる。
それに雇い主が他にいるんだろ?あの若い魔術師だよな?」
なんでこいつがそんな事を知ってるんだ?
俺が考えに至るのとメルセルが言うのは同時だった。
「盗賊ギルドに、潜入した奴がいる。
そいつは秘宝を欲しがっていて、そいつの依頼主共々葬って欲しい。
そういう依頼なんでな。
ある程度泳がせた後、始末する予定になってた。
まさかカーリアまで見つけてくれるとは思わなかったがな。」
「貴様…。」
「いいぞ、ゼノ。いい表情だ。
裏切りはこれだからやめられない。
ガルスも殺す時はこんな表情だった。
安心しろ、お前の主人もここで殺してやるから。
ブリニョルフにはよろしく言っておいてやるよ!」
そういうと、奴は剣を俺に向けて振り下ろした。
くそ。ついてない。
鮮血が首から流れていく。
俺は薄れ行く意識の中で、小僧にこう謝った。
すまなかったな、力不足でよ。
次回に続く。